ごあいさつー俳優という立場からー第7回公演当日パンフレットより

平泳ぎ本店 主宰 松本一歩 

縁あってPLAY/GROUNDという創作ユニットを主宰されている井上裕朗さんという俳優の方のお話を伺ったとき、とても印象的だったのが「おおげさなようだけれど、俳優は数も多い。一つ一つの現場で、そこに関わる俳優ひとりひとりの意識が変われば、世界が変わるかもしれない。」という言葉でした。

おそらくこうした小劇場で演劇の創作に関わる人たちの中では、劇作家よりも演出家よりも、そして他のあらゆるスタッフの数よりも俳優(そして俳優経験者)の方の数が多いのではないでしょうか。

たとえば今回のこのプロダクションでも、とても印象的なフライヤーをデザインしてくださった宣伝美術の藤尾さんも、とにかく高い水準で仕事を遂行される舞台監督の水澤さんも、プロンプターを勤めてくれているいまいさんも制作助手をしてくれている崎田さんも、もともととてもすぐれた俳優さんだったりします。

自分ではない誰かの言葉を受け取り、その背景を想像し、観るものにそれを伝えるというのが俳優の仕事の一つなのだとすれば、いくつもの立場を経験し、それぞれのポジションの人の心情をわかり、汲み取り、リスペクトを忘れず「より良いものにしよう」と真心を込めて創作に携わりその場所を運営する。そうしたいわば「俳優のマインド」をもった一人ひとりのつくり手が主体的に場の運営や創作に携わることで、自ずと心がこもり、うまくいくと人を感激させることができるようになるのかもしれません。

たとえばメディアアーティストの落合陽一さんは「百姓」という言い方をされますが、私の志す演劇でも、完全な分業性というよりもむしろ分け隔てなくすべてのポジションの人が有機的に創作に関わることができるといいなと思っています。若い世代の人口も減少し、ゆるやかに下り坂へと向かっていくこの国にあって、そうして一人一人が自らのポテンシャルを十二分に発揮し、活躍できるような環境やルールの整備が、限られた人と資源を元にして豊かな劇場文化を実現していくためには必要なのだと心から思っています。

これまで通りのつくり方をつづけていては、演劇はどんどん痩せ細り、とても持続して豊かな作品をつくりつづけていかれない。

願わくはこれから先の将来、新しい演劇のありようを考えようとする時、その先頭にひとりひとりの俳優たちが立っていて欲しいと思います。きっと他のどのポジションの人よりも、俳優は優しくなれる。なぜならこれまで、いちばん弱い立場に置かれてきているからです。俳優は尊い。そうして演出家も劇作家も観客もありとあらゆるポジションで演劇に携わっている一人ひとりが尊い。互いの存在に敬意を忘れず、一度きりの人生のなかで演劇の進歩に資することが出来ればと願いながら、私もまた一人の俳優としてこれからの創作を重ねていきたいと考えています。 

※第7回公演当日パンフレットに掲載したものを一部加筆し、再録したものです。2022/09/10

冬眠報告、2021年のごあいさつ。雑誌に掲載されました。俳優特集「私の原点」

平素より大変お世話になっております。
平泳ぎ本店 主宰の松本一歩です。

ご挨拶が遅くなりまして申し訳ございません。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、1月9日発売の雑誌・演劇ぶっく
2021年2月号
俳優特集 「私の原点」にて、弊本店の3名(鈴木大倫・松本一歩・丸山雄也)についてインタビュー記事を掲載して頂きました。

そもそも別の道を歩んでいた人たちがなんで演劇を志すようになったのか、その原点について語るインタビューとなっています。

決して予断を許さない大変な時期ではありますが、書店や注文にてお手にとってご覧いただけましたら幸いです。

林遣都さんの表紙が目印です。(林遣都さんは平泳ぎ本店のメンツとほぼ同年代ですが、雲の上の方ですね。)

またこのインタビューは平泳ぎ本店にとっての”ゆりかご”こと常盤ライブラリで行われました。
ほとんど全ての作品の打ち合わせをしてきたこの場所で、今回のインタビューを受けられたことをとても嬉しく思います。重ねて御礼申し上げます。

えんぶ(旧・演劇ぶっく)という雑誌は私の学生の頃から大好きな俳優さんや団体が掲載されることも多く、まさに憧れの雑誌でありました。

昨年の8月にストレンジシード静岡というイベントへ向けて製作、期間限定で公開した『夜を抜けて』という映像作品がきっかけとなって、今回のインタビューへと繋がりました。

しかしながら昨今の情勢はとにもかくにも厳しく、とても演劇がどうこうと言っていられるような余裕も、ちかごろではなくなって参りました。

日々仕事をするにつけ、すぐ隣の人にも余裕がなくなってきているのを肌で感じます。

平泳ぎ本店としては、こうした状況下で無理を押して公演を行うということは考えておりません。

公演はもちろん、その過程での稽古やそのための移動など、多くのリスクを取ることで本人はもちろんその家族や周りの人、そして何より観に来てくださるみなさまを無闇に危険に晒すことはできないと考えているからです。

今この状況下で、まずそれぞれの生活を守り、健康を守り、きちんと生きのびることに集中しようということを繰り返し繰り返し話し合っています。

平泳ぎ本店に関わるメンバーもそれぞれ状況の変化はありつつも、なんとか元気に過ごしています。

また、この状況下で生まれた時間や機会を生かしながらそれぞれに研鑽を積み、またいつか演劇を行えるようになる日を見据え、学びを深めています。

2021年も、現時点で本公演の予定はありません。

しかしながら感染症対策に十分留意し安全を確保し、実現可能な手段を組み合わせることで、演劇の公演ではなくとも何かしら、自分たちなりに面白いと思えるものを、映像なのか、あるいは文章なのか、発表したいと考えています。

おもしろいものをつくっていたいという気持ちは止まりません。

その時にはぜひ、もし余裕がおありでしたら、覗いてみてください。

今はまだまだ力が足りませんが、この暗く寒い冬を過ごしたことを糧として、近い将来かならずえんぶの表紙を全員で飾ります。

そう信じて、この時期を過ごしていきたいと思います。

これからも平泳ぎ本店にご期待ください。

予断を許さない状況が続き、多くのストレスを抱える大変な日々が続くことと思います。

くれぐれも皆様もお体には気をつけて、ご自身や周りの方の健康を守りながらこの日々を無事にやり過ごせますよう、心から祈っています。

私も、平泳ぎ本店一同も、この世界で他の人にやさしくあり続けられるよう頑張ります。

平泳ぎ本店 主宰
松本一歩

平泳ぎ本店のつくりかた(ワークインプログレス)開催のお知らせ。 (10/6(土)はおいしいよるごはんつき!)

このたび平泳ぎ本店では次回公演『この戯曲を演じる者に永遠の呪いあれ』の稽古期間中に、
「平泳ぎ本店のつくりかた(ワークインプログレス≒稽古場見学)」を開催いたします。

なんと!

10/6(土)はおいしいよるごはんもつきます!

ぜひぜひ、十色庵へお越しください。

詳細

■日時
10/6(土)☆、7(日)、13(土)、14(日)
各日とも 15:00~21:00(途中の入退場は自由です。)
■費用
500円(お飲み物付き)
■定員
各回若干名
■会場
十色庵
〒115-0043 東京都北区神谷2-48-16 カミヤホワイトハウス BF1
JR赤羽駅南口から12分、東京メトロ南北線志茂駅1番出口から7分
■お申し込み
件名を「ワークインプログレス」とし、「ご希望日時(いらっしゃるだいたいのお時間)、お名前、人数」を明記の上、下記メールアドレスにお送り下さい。

[mail] hiraoyogihonten@gmail.com
[Tel] 090-4099-2941

◆お申し込み後、4日以上経過しても返信がない場合、通信事故が考えられますので、お手数ですがお電話にてお問合せください。

◆携帯メールからお申し込みのお客様は、「 hiraoyogihonten@gmail.com 」からのメールを受信できるよう、設定してください。

■お問い合わせ
TEL 090-4099-2941
MAIL hiraoyogihonten@gmail.com

☆10/6は十色庵でおいしいよるごはんつき。
20:00「いただきます」

よるごはん代:実費(材料費)&投げ銭(お好きにお値段おつけください)

シェフ:日花泉さんより
「はじめまして。料理と演劇をこよなく愛する、現在大学4年生の、ひばないずみです。文字だけだとよく間違われるのですが、オトコです。

松本さんとは年明けにご縁がありまして、今回とっても素敵な企画にお誘い頂きました。洋食と(少々)和食が得意で、大学の友人に料理を振る舞ったり、ときどき創作料理を作ったりしています。最近は、旬の食材を美味しく食べることをテーマに料理を作っています。

みなさんの胃袋、貸してください。

美味しい料理をたくさん用意して、お待ちしております!」

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(料理イメージ 上:里芋の煮っころがし 下:焼き野菜のポトフ)

「稽古が、すき。」

いまさら大っぴらに言うのも憚られますが、私は演劇が好きです。

演劇をつくっている側の人間として「演劇が好き」と言うときに、劇場でお客様にご覧いただく公演の本番はもちろん楽しく、何物にも代えがたいものですが、「実は本当に好きなのは稽古なのではないか」と思うことがあります。

劇場での本番は週末の数日間だったり、(私たちだと)長くても一週間ほどのものですが、なにしろ稽古はそれに先立って何十日も、何週間もやっているのです。

ほんとうに、稽古場にいる時にはたくさん笑います。白熱した議論や、言い合いや、喧嘩もときにはしますけれど、「生きていてこんなに楽しいことはない」としばしば思うほどに、よく笑います。

「なにがこんなに楽しいのだろう?」と思うに、目の前の俳優というひとが、およそ日常で考えられないくらい変だったり、大変そうだったり、不器用でおかしかったりして、「ああ、人っていとおしいな」と思っているからだと思います。

そして何より作品の上演に向けて、日一日とどんどんと変わっていく彼らの姿を見ているのが、とても楽しいのです。

そうして何をか演じようとする人をじっと見るという、稽古場はそんな場所です。

その稽古がこんなに楽しくて、しかもせっかく素敵な稽古場(十色庵!)も借りられたのだから、ふらりと私たちの稽古場へ遊びに来ませんか?という、そんな企画です。

平泳ぎ本店の稽古は、元々俳優ばかりのディバイジング(集団創作)を旨としているので、とにかくよく話し合います。

作品について、役について、演技について、衣裳や、装置について。とにかくお互いに、いろんなことを話します。

(あと踊っていたりもします。今度下北沢でカレーのイベントに出るので、5,6日はその稽古もしていたり…!詳しくはこちら→https://engeki.jp/2018/09/21/sanka-dantai/)

「演劇をつくる」というとなんだか派手に聞こえるかもしれませんが、けっこう地道に、そしてできるかぎり丁寧につくっています。

そんな平泳ぎ本店の稽古場へ一度遊びに来てみませんか。

作品の中身は思いきりネタバレになりますが、大丈夫です。

稽古場から劇場に入り、照明と音響が入ると(もちろんいい意味で)まるで別物になるからです。

そして!

今回稽古させて頂く十色庵にはキッチンがありますので、日花泉さんという素敵なシェフをつかまえて、よるごはんをつくってもらえることにもなりました。

とにかくおいしいごはんをたくさんつくれる日花さんです。

栄養足りてない演劇人!たくさんいるでしょ!美味しいご飯があります!

もちろん演劇をやっていない方も、どなた様もぜひぜひ、遊びに来て下さい。
演劇は、稽古は楽しいです。

十色庵にて、お待ちしております。

平泳ぎ本店 主宰
松本一歩

 

(過去公演 稽古風景より)