わたしには信じかねた。あれほど何ヵ月も稽古をかさね、あれほど細心の注意を払い、あれほど討論をくりかえし、
幾多のことをやってみては変えてきて――こまかいところまで念入りにしあげたのに、こんなみじめな上演結果におわるなんてことがありうるだろうか?(中略)とにかく事実として、わたしの演技はかれらを感動させなかったのだ。かれらの関心をかきあつめられなかったのだ。かれらはちっとも楽しくないから、賞賛の声を発しなかったのだ。それどころか、わたしのために胃の痛む思いをしたのかもしれない。(リー・ストラスバーグ『メソードへの道』p.12-13 構想社)
こちらは「スタニスラフスキー・システム」と並ぶ演技術、いわゆる「メソッド演技」の元ネタになるリー・ストラスバーグの著作の冒頭で紹介される、アメリカの名優ウォルター・ヒューストンがブロードウェイで『オセロー』を上演してコケた時の文章です。
お客様への言い訳でも、平泳ぎ本店の役者への非難でも何でもなく、演劇というのはとことん難しい物だなとしみじみ思います。
非常に悩ましいです。
「ん、ん?」というほんの些細なボタンの掛け違いが積み重なって、大きな何かを取り逃がすということがままあります。
仮にも主宰を名乗っている人間が、舞台の幕が開いてからこんなことをここで書くのも言い訳がましく、ご来場されたお客様にも本当に失礼なことだということは重々承知の上ですが、プレビュー公演は決して満足のいく出来ではありませんでした。
昨夜のダメ出しの様子です。
ごくごく具体的に言えば、役者の声量や距離感、観客が入った劇場内の空間を埋めるボリューム感、一つ一つの台詞の間の長短といった部分です。もちろん昨夜の終演後のダメ出しで演出からのダメと共に役者たちには伝えてあります。そしてきちんとお互いの考えを話し、問題意識を共有し、今日の公演に向けて具体的に「どう変えるか」というイメージを共有しました。
実を言うと、ダメ出しの際にとある準店員も真っ先に「今日つまんなくなってた」と言いました。というのは稽古の段階ではもっと面白い状態を何度も観ているからです。
何がいけなかったんでしょうか。
かく言う僕自身も、かつて舞台で「ん?なんか今日うまくいかねえな」ということがあり、終演後に演出家から「今日の芝居が崩れた諸悪の根源はお前」と言い放たれて半年近くスネたことがあります。
うーむ。
難しいです。
「役者:player」と「俳優:actor」という言葉があって、これらは本当はかなり厳密に使い分けをしなければいけないのですが、なんとなく「役者」の方がどちらかというと観客に近く、「俳優」の方は観客と舞台を隔てる「第四の壁」の向こう側にいるようなイメージを僕は持っています。
平泳ぎ本店では願わくはその中間をうまく狙いたいと、考えてはいるのです。
演劇なんてどうせ嘘なんだから、会話の距離感もあるいは役の感情も、ぶっちゃけそれらは嘘でもよくて、それらの「演劇の嘘」を逆手にとって、「実際の生活だったら絶対嘘なのになんかすごく響く」「絶対に嘘だけど思わず笑ってしまう」といったラインの表現を狙いたい。
リアリズムにはまるで用がない訳です。それよりも、リアリズムも何もおもしろければ、OKな訳です。というのは学生の頃に初めて読んだ演劇論にもろに影響を受けていますが…。
さて。
要は客席で観ていてもっとグッと来るような、そういう「当たり」の演技が観たいということです。
やはりプレビュー公演でその「当たり」を引けなかったというのは、主宰としても非常に忸怩たるというかシンプルに悔しいものがあります。
先にダメ出しの時の準店員の話も出しましたが、僕自身稽古場ではもっと面白い状態を何度も観ているからです。
もっと面白く出来るはず。
言うまでもありませんが、役者たちは毎回全力で舞台に立っています。稽古で取り組んできたことをきちんとやっています。
それでも、もっと面白く出来るはずなのです。
今回僕は舞台に立たないので、どうしようかと考えて、こうしてひとまずブログに駄文を書き付けています。プレビュー公演の出来ではまるで満足できていない。
平泳ぎ本店ではこの先、狙って「当たり」を引けるようになりたいと思っています。ものすごく平たく言えば、毎回きちんと観客の方々に「面白い」と思ってもらえる様な上演を目指したい。
昨日の出来より、もっと良くできること。平泳ぎ本店としてそれを目指すこと。そのためにどうしたらいいのか、どう準備してどう本番を迎えたらいいのかということを今朝も例によって皆して話し合い、残り12回の間に全力で考えるということで方針は決まりました。
まずは、プレビュー公演の結果を踏まえて、今日を昨日よりも確実に良くすること。残りの12回で前に進み続けること。
そんなことを考えながら、本日もシアタープーにてお待ちしております。
平泳ぎ本店 第1回公演
“The Dishwashers”
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松本